蕎麦
気づけば、昔から蕎麦が好きでした。
子供のころ、夏になるとよく家族で「ざる蕎麦」を食べていました。
うちでは少しお高めの乾麺を使っていて、それを茹でて冷水でキュッと締めて、
薬味に刻んだネギとワサビを添えるのが定番スタイル。
別に特別なイベントじゃなかったけど、今思えばあの時間がすごく贅沢だった気がします。
蕎麦って、どこか「静けさ」のある食べ物だと思いませんか?
ラーメンみたいな豪快さはないけど、奥ゆかしい美味しさがある。
子供のころには分からなかったその良さが、今になってじわじわ染みてくる感じです。
蕎麦湯という名のエンディング
蕎麦を食べ終わったあとに、そっと出される「蕎麦湯」。
あれを初めて飲んだとき、「え?お湯?」って正直思いました。
でも、温かくて、ちょっととろみがあって、つゆと混ぜると体の奥にやさしく届く。
いつからか、「蕎麦湯を飲む時間」が、蕎麦を食べる楽しみの中でも一番好きな時間になっていました。
映画で言えばエンドロール。
旅で言えば帰りの電車。
温泉で言えば脱衣所で牛乳を飲む瞬間。
一つの体験の“締め”として、静かに体に沁みてくる、そんな役割。
健康という名の言い訳
蕎麦が好きと言うと、必ず「ヘルシーだよね〜」って言われます。
たしかに。
蕎麦は白米やうどんに比べて糖質が低く、食物繊維やルチンというポリフェノールも含まれています。
この「ルチン」がなかなかすごくて、血管を丈夫にしてくれる働きがあるとか。
動脈硬化の予防にもつながるというから、年齢を重ねるごとにありがたみが増していきます。
そして、さきほど登場した蕎麦湯。
実はこの蕎麦湯の中に、蕎麦を茹でる際に溶け出した栄養素がたっぷり含まれているんだそうです。
ビタミンB群やミネラルも、こっそりそこに。
知らずに飲んでた蕎麦湯、健康ドリンクだったとは…!
まぁ、それを「健康のために飲んでる」と言うのはなんだか野暮な気もしますが、
好きなものが体に良いって、単純に嬉しいですよね。
うどん派?蕎麦派?
以前、友人たちとの何気ない雑談で「うどん派か蕎麦派か」という話になりました。
世間的にはうどん派が優勢という話をどこかで聞いたことがあります。
たしかにあのモチモチとした食感は万人受けしますし、子供も大好き。
でも私は迷わず「蕎麦派」と答えました。
なぜだろう。うどんも好きなのに。
たぶん、うどんが“太陽”なら、蕎麦は“月”みたいな存在なんです。
主役ではないけれど、そっと寄り添ってくれる安心感。
食べながら「自分をいたわっている感」があるのも、蕎麦ならでは。
蕎麦を食べるたび、少しだけ自分に優しくなれる気がするのです。
まとめ
蕎麦って、ただの食べ物じゃなくて、
私にとっては「静かなる時間」そのものなのかもしれません。
年を重ねるごとに、味の好みが変わってきたように、
「お腹を満たすだけじゃない食事」のありがたさにも気づくようになってきました。
情報が多すぎて、健康にいい食べ物のトレンドは次々と変わっていくけれど、
蕎麦だけはずっと変わらず、そばにいてくれそうな気がします。
だから今日も、私は蕎麦をすすります。
静かに、しなやかに、そして、ちょっと健康的に。